• 内藤博久

製造業のニューノーマル

ポスト・コロナ社会で求められる新しい仕事環境を「ニューノーマル」と表現しますが、このニューノーマルの定義は日々変化しています。CDC(米国疾病対策予防センター)やOSHA(米国労働安全衛生局)、そして州政府などから出されるガイドラインは常にアップデートされ、これらの新しいガイドラインに沿って安全プランを更新し、従業員に安全な労働環境を確保することが雇用主の義務となります。その中でも、ニューノーマルの徹底や理解が強く求められる業界が、「製造業」です。ポスト・コロナ社会で、訴訟のターゲットとなりやすい業界のトップ3が、製造業、ホスピタリティ産業、そして人材派遣業といわれています。米国進出する日本企業の多くも製造業であることから、雇用主は、日々変化する「ニューノーマル」の定義にアンテナを張っておかなければなりません。


多くの製造業は、コロナ禍における事業再開のための安全プランを策定していると思われますが、このようなプランの策定後には、以下を常に意識することが重要となります。

 1)安全プランの調整

 2)プランの実効性や有効性の確認

 3)従業員とのコミュニケーションや教育(トレーニング)の必要性

 4)ルール遵守と違反者に対する取締りの確認

 5)会社のコロナ対策チームやタスクフォースの強化


「ニューノーマル」とはまさに、会社の安全プランを基礎に、上記の1)~5)の工程を継続して確立していく環境となります。たとえば、ポスト・コロナでは、感染により、死亡を含む重症化の犠牲者(従業員)とその家族が、雇用主を訴えるという案件が増加しています。コロナ問題が起きる前は、労災保険が救済となるためこのような訴訟は存在せず、ある意味、コロナ禍における新しい現象といえます。この新しいタイプの訴訟も、上記の1)~5)を雇用主が怠ることで、成立してしまっているわけです。逆にいうと、1)~5)の作業を徹底することで、ポスト・コロナの訴訟リスクは予防することができたり、ダメージの最小化が図れることになる、といえます。


よって、安全プランは策定して終わりではありません。たとえば、製造業の雇用主は、従業員が共有する場所、器具、所有物が何であるかを特定し情報のアップデートをしていく必要があります。「従業員が共有する器具や場所は、使用後必ず除菌しましょう」といった大雑把なルールは、事業再開をした直後は十分かもしれません。しかしその後、共有所有物が多い製造業は特に、何が従業員の間で共有するものなのかを具体的に従業員に示さなければなりません。そして、除菌作業の実施方法をプランで定義し、必要に応じて従業員のトレーニングしていくことになります。コロナに有効な除菌洗剤が開発されれば、迅速に現場で活用していきます。また、有効な予防対策には、従業員ひとりひとりの意識が大切です。よって、従業員には会社ルールの重要性を周知させ、同時に、違反者には厳しく対応しなければなりません。


その一方で、従業員の不安の声にも対応できるシステムが必要となります。従業員数が多い製造業では、従業員の体調管理スクリーニングを法的に、そして時間の無駄なく行うメカニズムが必要となってきます。また、雇用主は、今まで以上に従業員の個人情報やメディカル情報を取扱うことになるので、会社の文書管理体制やプライバシーの保護体制の見直しが必要となってきます。このように、製造業が生産性を高めることと、ポスト・コロナで雇用主が安全な労働環境をつくる義務とを、バランスよく考えていく作業が、「ニューノーマル」です。そして会社によって、この労働環境をカスタマイズしていくことが、予防法務としても重要だと言えます。


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